衝撃トレード!廣岡の放出は本当に正しかったのか?

NPB 東京ヤクルトスワローズ 読売ジャイアンツ

スワローズのロマンを背負った男・廣岡大志田口麗斗選手とのトレードで読売ジャイアンツに移籍することが発表された。
他球団のファンから見るとWin-Win、それ以上にスワローズWinとの見方もあるようだが、果たしてそうだろうか?

ファン目線が大いに入っているが、それでもこのトレードには反対票に一票を入れたい。

廣岡大志(ひろおか たいし)

2021年シーズンで、廣岡は6年目24歳。デビューがあまりに鮮烈だったせいか、今や伸び悩みの代表格にも上げられる勢いだが、まだ年齢を考えるとそうでもない。
廣岡選手に関する詳しい記事はこちら→巨人へ電撃移籍!廣岡大志ってどんな選手?

右肩上がりの長打率

2020年は初めて100打席を記録した2018年以降キャリアハイの長打率(.446)とOPS(=出塁率+長打率)(.748)を記録した。これは絶不調だったとはいえ、山田哲人とほぼ同水準(長打率.419、OPS.766)の成績である。
打率が低く三振が多い選手であり、粗さが目立つ印象があるがその分四球は稼いでいる。四球率は2019年13.6%(平均8.6%)、2020年11.3%(平均8.6%)とリーグ平均を上回っている。
本塁打数は2019年の10本から8本に減少したが、これは単純にシーズンが短縮された関係もある。本数は減少したが、本塁打率は2019年が20.2、2020年が15.13と向上している。これは、仮に2019年と同じ202打数与えると約13本に相当し、前年を上回る。
OPSに関しての記事はこちら→今さら聞けないOPSとは?~東京ヤクルトスワローズから見るOPS~

廣岡のIsoP

さらに純粋な長打率を示すIsoPでは.104→.188→.231とここ3年で大幅に上昇させている。
参考までに下記はセ・リーグの100打数以上のIsoPランキングだ。

カープの4番鈴木誠也やチーム2位の青木宣親に近い数値を出している。そして2019年本塁打王のソトやチームメイトとなる坂本勇人の数値を上回っている。この事から、廣岡の長打力がいかに高いかが分かると思う。

以上のことから、打率は伸びていないが、その分長打が増えてきている。コンタクトに関しては、キャリアを積むごとにスキルが向上も期待できるので、将来的には30本100打点も狙えるショートになる可能性を秘めている。

仮に廣岡が2019年の規定打席(2020年が短縮シーズンのため)、433打席に到達すると以下のような成績が予想される。

  • 443打席95安打29本55打点134三振 50四球

特出すべきはやはり本塁打。仮にショートで出場したとなればこれだけホームランを打てる選手はそうはいないだろう。ネックは三振の多さと低打率。しかし四球が選べる選手なので、出塁率は3割に乗る。これから場数をこなし、打率はなんとか.250台には乗せたいところだ。
しかし8番打者として常時試合に出場させれば相手にとって脅威ではないか。1997年の優勝メンバーの中にヘンスリー・ミューレンという選手がいたが、打率.244ながらホームラン29本80打点134三振を記録し、恐怖の8番打者として優勝に貢献した。彼もまた三振が多く低打率で守備も拙かったが、このポジションで廣岡を起用し続けたら面白い存在になっただろう。

田口麗斗(たぐち かずと)

実績は2016年に10勝、2017年に13勝と2年連続2桁勝利から一転、2018年には2勝8敗と低迷。2019年はリリーフとして復活し、55試合に登板し14ホールド。オフに行われたプレミア12では侍ジャパンに選出され、優勝に貢献した。2020年は先発と中継ぎで登板し、5勝7敗2ホールドという成績に終わった。
不調に陥った原因と復調の要因を考察した。

生命線となるスライダー

ここまで不調に陥ってしまったのは、これまで武器としていた2018年からスライダーが打ち込まれているからではないか。
下記は、不調に陥った2018年から2020年までのストレートとスライダーの空振り率と被打率だ。

ストレート(空振り率/被打率)

  • 2018年 3.3% .313(先発)
  • 2019年 3.8% .287(中継ぎ)
  • 2020年 5.4% .308(先中)

スライダー(空振り率/被打率)

  • 2018年 9.0% .340
  • 2019年 18.7% .193
  • 2020年 8.5% .224

過去3年の球種別割合を見ると、ストレートとスライダーが全体の約8割を占める。その中で先発だった18年、先発とリリーフをこなした20年は、スライダーで空振りが取れなくなってきている。逆に完全に中継ぎとして過ごした19年はスライダーで空振りも取れ、尚且つ被打率も.190台に抑えている。その相乗効果か、ストレートの被打率も.280台まで抑えている。
ストレートの不調でスライダーが決まらないのか、もしくはその逆か。数字上では判断できないが、スライダーの改善が、復調の決め手になるのではないか。

もうひとつの懸念材料

また、本塁打率が全盛期より上がっているのも気になる点だ。東京ドームよりさらに本塁打の出やすい球場を本拠地とすることにより、より被弾の数が増える可能性がある。

過去5年間のイニング数と被本塁打、被本塁打率

  • 2016年 162回 15本 0.83
  • 2017年 170.2回 14本 0.74
  • 2018年 86.1回 13本 1.36
  • 2019年 65.1回 11本 1.52
  • 2020年 89.1回 10本 1.01

スワローズは先発投手として獲得しただろうが、近年のデータを見ていると、適正は中継ぎにあるのではないかと感じる。19年の成績を見ると防御率は4.13だが新疑似防御率であるtRAを見ると3.72。これはとゴロを打たせていることが分かる。また65.1回で66奪三振と中継ぎの方が球威を発揮できるのではないだろうか。

高卒6年目は伸び悩みなのか?

再び廣岡の話に戻りたい。
スワローズにおいては村上が高卒2年目、山田が高卒3年目には1軍で主力として台頭し始めた。少し遡ると岩村明憲(高卒4年目)や池山隆寛(高卒4年目)が早くからレギュラーとして活躍した。そう考えると伸び悩んでいるようには見えるが、村上宗隆は例外中の例外。他の3選手も「早い」という印象だ。

以下は、スワローズで主な24歳以降のブレイク選手だ。

(データ参考プロ野球データFreak

表は、ブレイクのシーズンとその前年の成績がどうだったかを表したものだ。2021年シーズンの廣岡と同様、高卒入団6年目(24歳)のシーズンでブレイクする選手もこれだけいる。廣岡と近いタイプの畠山和洋も2軍でタイトルを獲りながら、ブレイクしたのは高卒8年目の26歳。その後やや低迷し、2011年には初の20発となる23本塁打。2015年にはキャリアハイの26本105打点で打点王。チームのリーグ優勝に貢献した。
川端慎吾も故障がありながら6年目にして初の年間100安打。2015年の優勝時には.336で首位打者を獲得するまでに成長した。
青木も高卒6年目にあたる2年目シーズンに200安打を放ち一気にブレイク。前年のイースタン首位打者の実力を見せつけた。
また、ここに記載はないが、坂口智隆もオリックス時代の高卒6年目にブレイクし150安打.278 13盗塁を記録している。

このように現状で廣岡を伸び悩み、活躍の場のない選手と判断するのは早すぎる。現に今年のキャンプの段階では、西浦やルーキー元山と、横一線のショートレギュラー争いを繰り広げ、巨人のドラフト1位平内投手から、ホームランを打ったばかりだった。また、守備に多少難があるものの、強肩で足も速く、年間30発のホームランを打てる可能性を秘めている選手をまだ24歳という段階で、またチームが発展途上の段階で放出するということに疑問が残る。

今回のトレードと将来。

田口は良い投手だ。チームに加われば必ず戦力になってくれるだろう。
しかし、今、どうしても必要な選手だっただろうか?田口選手が再生したとして、優勝を狙えるチームになるだろうか。
投手陣の再建は目に見えて分かる課題だったはずだ。それをオープン戦が始まる前の段階で見限りを付け、付け焼刃のようなトレードをするのはどうだろうか。またチームが成熟していない段階で、若手を放出することも、編成としてどのような意図があるのか知りたい。
また、このような報道もあった。
巨人・原監督が電撃トレードの裏側を赤裸々告白「この前のオープン戦の時に…」
このことから、明らかに戦略の練られた編成ではなく、行き当たりばったりのトレードだったことが分かる。しかも巨人サイドは「レシピとしてはあった」と、以前から目をかけていたようなコメントもある。
現状のチームは明らかに投手が不足している。だからこそ今年や来年まで時間をかけ育成していくべきではないだろうか。
また、このタイミングで投手陣を立て直すなら、もっとトレードを仕掛けていいはずだ。田口選手一人の補強だけでは、現状を立て直せるとは思えない。飽和している左打の内野手。レギュラーを掴めきれていない中堅選手。投手を補強するのならばこういった選手を積極的にトレードしていくべきだ。この1件だけのトレードでチームは変わるのだろうか。

今回のような、その場しのぎの様なトレードや外国人補強ではチームは強くなれない。そしてチームが成熟しきったところで、若手を放出し、さらなる戦力を補強する。この方が理にかなっていると思う。
今回のトレードで、現状を耐え凌ぐだけの、未来を見ていない編成だと感じた。

かつて巨人は、FA選手や他球団で活躍した外国人選手を手あたり次第に獲得し、チームを編成している印象のチームだった。しかし今は、チームの戦力をしっかり分析した上で、積極的にトレードを敢行し、足りない部分をFAや外国人選手で補うチームに変わってきていると思う。今回のトレードも坂本選手の後釜を育成するための、早めの補強だと、常に先も見据えた編成を考えている。「選手を飼い殺しにしない」とは、聞こえは良いが巨人からしてみたら余剰戦力だ。それは原監督の「先発、中継ぎ、抑えは確率されてしまっている」との言葉からも分かる。(巨人・原監督 トレード獲得の広岡は岡本級「右の大砲」 田口には「打倒巨人軍で来い!」
その選手を放出しショートの後釜候補を獲得した。つまり優勝出来る戦力を維持したまま、将来への補強を成功させたわけだ。

一方のスワローズは、廣岡は飼い殺しにされているわけでもなければ、余剰戦力でもない。ショートのレギュラー候補だ。昨年も87試合に出場し、持ち前の長打力は前述した通りだ。つまり無傷の巨人と出血したスワローズ、こういったトレードになったわけだ。

結論

冷静に今のスワローズを分析すると、余程若手投手が出てこないと優勝は厳しいと感じる。こう思っているスワローズファンは私だけではないだろう。それは田口が加入しただけでは、投手陣への懸念が払拭されないからだ。
全てのインタビューをチェックしたわけではないが、高津監督や新キャプテンの山田も今年は「優勝」とは言わず「Aクラス」と言っていたはずだ。それが今の現状なのだ。
だからこそ、未来も見据えた、戦略あるチーム編成が大事なのではないか。
今の状況を凌ぐためのトレード。改めて、このトレードには反対票に一票を入れたい。

 

編集後記

今回のトレードで、色々思うことがあり書きました。
もちろんシーズンが始まれば毎試合勝ってほしいですし、当然応援もします。しかし今年だけを見た補強は、未来に繋がらないと思います。なので、今年は無理して勝ちにいかなくてもいいのかな?と思っていましたので、将来の3番候補をアッサリ放出した(キャンプ中に編成が廣岡のホームラン見てて決まったとか!?)今回のトレードは個人的には反対なのです。あとは書きましたが、巨人は無傷、スワローズは出血のトレード。そのことが、同じリーグのライバルとしては悔しいですね…それも一番期待していた選手だったので…。
トレードの結果はすぐには表れないません。数年後お互いの選手がどのように成長しているか。楽しみに見守りたいです。
新しくチームに加わる田口選手の事はもちろん応援しますよ!当然期待も大きいです!巨人に移籍した廣岡選手も、気持ちは複雑ですが、ビッグな選手になって欲しいと思います!(なんか応援する…っていうのは、まだしっくり来ないなぁ笑)そして大きくなってスワローズに戻ってきてくれたらなぁ…。

「出典元:2019、2020、2021プロ野球オール写真選手名鑑 株式会社日本スポーツ企画出版社)