侍ジャパンがオリンピックをアマチュアに戻せない3つの理由。

オリンピック 国際野球

野球日本代表…侍ジャパン東京オリンピックで金メダルを獲得した直後から「オリンピックはアマチュアに戻すべき」という声が多く聞こえてくるようになった気がする。元々そのような意見は散見されたが、金メダルを獲った事で満足したファン、まるで役目を終えたかのような意見が見られたことも事実だろう。
確かに元々は「アマチュアスポーツの祭典」としての位置づけであったオリンピックは、本来は野球に限らず、アマチュア選手が出場すべきなのかもしれない。しかしスポーツの多様化が進みトップ選手は個人でスポンサーを募るなど「プロ化」が進んでいる。仮にオリンピックが再びプロの出場が禁止されれば、世界最高峰の大会であるオリンピックに各競技のトップ選手が出場出来なくなる(サッカーなどそうでない種目もあるが)ことに、やや矛盾も感じる。

アマチュア選手の活躍の場を奪ったとも言えるが、正式種目から外れているものの、復帰の際「アマチュアに戻す」事は、野球競技に限ればほぼ不可能だろう。

1.IOCからの要請

まずはオリンピック野球競技のプロ選手が解禁された背景に、IOC国際オリンピック委員会からの要請があったからだ。オリンピックは世界最大のスポーツの祭典で、各競技トップレベルの選手が出場しているのに、野球に関してはトップ選手が派遣されないことに疑問を呈したからだ。

そして1998年。
当時の国際野球連盟であるIBAFは1998年プロ選手の国際大会出場を解禁したのだ。

そして下記はその後の日本代表がプロ化するまでの流れだ。

  • 1998年アジア競技大会にてオールアマで編成した日本は朴賛浩(当時ロサンゼルス・ドジャース)を擁するオールプロの韓国に対し計3回対戦し、全敗するなど完敗。
  • 翌年に控えたシドニーオリンピック予選にはプロが参加しない限り本選出場は厳しいと考え、プロ側に派遣を打診。
  • 古田敦也松坂大輔ら8人のプロ選手を加えたプロアマ混合チームで臨むが、予選突破は果たしたものの再び韓国に敗れる。
  • シドニー本選でも再びプロアマ混合チームで臨むものの、予選・3位決定戦とも韓国に敗れメダル無し。
  • このままの編成ではメダル獲得は困難と判断しアテネオリンピックからはオールプロで臨むことを決定
  • シーズン終盤のアテネ予選はトップ選手招集に成功したが、シーズン中の本選は各球団2名ずつの選出が決まる。
  • アテネオリンピックではオーストラリアに2度敗戦し銅メダル。またしても金メダル獲得とはならず
  • 北京オリンピックでは各球団2名という制度が撤廃され、各球団の主力が揃ったものの、3位決定戦に敗れメダル獲無。

以上のようなことから、日本もオールプロで臨まない限り、国際大会を勝ち抜くことは不可能といっていいだろう。
また今後、オリンピック自体がプロ不参加となることも、IOCが自らIBAFWBSC世界野球・ソフトボール連盟の前進の連盟)に要請したことから考えにくい。またWBCS側もMLBメジャーリーガーの参加を要請し続けており、2028年のロサンゼルスオリンピックでは野球・ソフトボールの競技復活とともにメジャーリーガーの初参戦も期待出来る。その中で予選からの戦いとなる日本は、アマチュア主体では結果を残すのは厳しいのではないか?

2.勝ちきれない国際大会

WBSCが主催するもっとも大きな大会で、プレミア12がある。
プレミア12は、WBSCにおける世界ランキングの上位12位ヵ国に出場権が与えられ「野球国力世界一」を決める大会とされている。(「日本代表 侍ジャパンオフィシャルサイト「WBSCプレミア12」について~「野球国力世界一」を競う国際大会~より」)
そして2019年の第2回大会からは「アジア・オセアニア最上位国」「北中南米最上位国」の2か国に東京オリンピック2020の出場権が与えられることとなり、オリンピック予選としての位置づけを持つようになった。これによってプレミア12の上位大会がオリンピックということになる。
では、プレミア12はオールプロ(NPB(日本野球機構)で臨み、その本選となる上位大会、すなわちオリンピックをアマチュアで戦うというのか?これでは選手レベルのねじれ現象が起きてしまう。かといって、「野球国力世界一」を争う大会にアマチュアで参加するのか?

また「侍ジャパン」はNPBエンタープライズという株式会社の事業の一旦とも言える。全カテゴリーの日本代表の活動を支援していくために、試合の運営・企画をし、放映権やグッズ販売等で収益を得て、それを代表に還元している。つまりオリンピックやプレミア12も事業としての侍ジャパンにとっては、貴重な収益源になるのだ。それを放棄してまでアマチュアでオリンピックやプレミア12に出場するだろうか。それらの収益が見込めない場合、トップチームの場合はNPBからの援助が受けられるかもしれないが、アンダーのカテゴリーや女子のカテゴリーはどうだろう。自力で国際大会出場のための資金の捻出は困難になるのではないだろうか。
こういった事情を踏まえると、やはり「オリンピックをアマチュア」にという事は「事業的」にも現実的ではないように思える。

3.WBSCの財政事情

WBSCの視点からしても日本がオールプロで出場しないことによる弊害が出るだろう。
また日本がプロを派遣しないことによる国際大会の人気の低下、すなわちWBSCの収益減に繋がる事は避けられない
野球がオリンピック種目から外れ、IOCからの補助金が大幅に減少したWBSCは、運営資金の多くをMLBからの資金援助で賄っている。変わりに、これまで行われていたインターコンチネンタルワールドカップと言った大会を廃止し、MLB主催のWBCWorld Baseball Classic)を世界一を決める公認の大会としたのだ。
(「プレミア12 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より」)
そのような状況でWBSC主催の最上位大会であるプレミア12へ日本がプロを派遣しなかったらどうだろうか。
MLBの参加が認められていないプレミア12はオリンピック同様、NPBが出場可能な世界一のリーグである。そして開催国も中心に台湾メキシコ、韓国など野球人気の高い地域で行われ、中でも人気・実力を考慮すれば、チケット収入や放映権で日本が与える影響が大きいという事は想像に難くないだろう。

結論

「アメリカは本気を出していない」
「アメリカは3Aレベル」
「メジャーリーガーの参加しない大会」

オリンピックが終わったあと、このような声が多く聞こえてきた。日本悲願の金メダルを獲得したというのに、何故その価値を下げるような声が出てくるのか疑問でならない。メジャーリーガーが全面的に参加しないのであれば、条件はどの国も一緒なはずだ。
今回の大会はそこまでレベルの低いものだったろうか?だとすれば、連日苦戦を強いられた日本も、さしてレベルの高くない国という事になると思うのだが…

もし日本がアマチュア主体で臨めば、勝敗に関わらず、上記と同様の声が聞こえてくるだろう。そして他国でも「日本はプロ選手を派遣していない」などと揶揄されて、その試合や大会の価値を下げてしまう。そうなれば他の強豪国はどうなるだろうか?次第にプロの派遣を辞めるという事態も想定出来る。そしてそれを機に、国際大会は衰退していく一方なのではないか?

レベルを下げることで、競技の普及がし易くなる、レベルの差がなくなって実力が拮抗して面白い試合が増える。という声もあるが、果たして本当にそうだろうか?そうだとしたら、社会人(アマチュア)選手で出場した2019年に出場したアジア選手権決勝で台湾に敗れた事や、同年フランス遠征で5戦して1敗したことを知っているファンはどれくらいいただろう?おそらく一部のコアな野球ファンの方々しか知らないのではないだろうか。
前述の定義を前提とするならば、もっと盛り上がりを見せていると思うが、これはトップ選手が出場しない大会には報道もファンも、あまり目を向けていないという事なのではないか。(大変失礼な表現で申し訳ございません。)
かつて日本のプロ野球もアメリカに追いつけ追い越せと、高い壁を追いかけ、発展してきたはずだ。プロリーグ後発の韓国や台湾もそういう気持ちで臨みレベルアップしてきたのではないだろうか。

スポーツを経験したことのある方なら一度は「あいつには絶対負けたくない」「あのチームにだけは絶対勝つ」そういったモチベーションを持って、練習した経験があると思う。いわゆるライバルという存在だ。その存在があるからこそ、成長できるという事も言えるのではないか。それが国単位になろうと、そのような存在は変わらないのではないかと思う。

野球でなくとも日韓戦は特にライバル対決と目される。上記の通り、日本代表のプロ化は「韓国」というライバルの存在が大いにあったことは、これまでの経緯を見れば明白だ。

日本の野球ファンは、日本国内の野球レベルが高いだけに、アメリカドミニカといった野球強豪国のメジャーリーガーとの試合でしか満足出来ない部分があるのかもしれない。また、アメリカ国内で国際大会の人気が今一つなのも、そのせいではないか。これは、レベルの高い野球が日常に存在する、ある意味弊害であると言えるかもしれない。
悪い言い方にはなるが、いつも高い所から見ているので、他国から見れば強豪国との対戦でも、レベルの低い、物足りない試合に映るのかもしれない。それだけ日本の野球レベルは世界的に突出しているのだと思う。

今あるべき日本代表の姿は、世界の野球をリードしていく姿勢だと個人的には思う。
NPBは世界でもMLBに次ぐリーグであると共に、オリンピック出場可能なリーグでは世界一と言えるだろう。その日本が高い壁として立ちはだかり、倒すべき目標でいることが、他国のレベルアップ、強いては世界の野球普及に繋がるのではないか。
そしていつかは、国際大会で常にメジャーリーガーを引っ張り出して来られるような…日本には、そんな存在であってほしいと思っている。

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