メジャーに負けないリーグへ!プロ野球(NPB)へ新・外国人選手制度を提案。

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2021年8月7日。東京2020オリンピック男子野球競技は、侍ジャパン…日本代表が全勝で金メダルを獲得するという結果で幕を下ろした。
日本がさも圧倒的な強さで優勝したかのように報道されているが、オープニングラウンドのドミニカ共和国戦では、最終回に相手の散漫な守備からの逆転勝利。アメリカ相手には終盤まで投手陣に苦しめられた。そのような戦いの中、オリンピックが始まる前や終わったあとも、相手国の戦力が格下、メジャーリーガー不出場によるレベルの低さが指摘され、オリンピックはアマチュアに返すべきだ!という声まで出てきた。(侍ジャパンがオリンピックをアマチュアに戻せない3つの理由。
しかしそんな中、存在感を示したのが、現役のNPB選手や、元NPB選手たちだ。日本の野球ファンは普段は見られないチームメイト同士の対決では複雑な心境を見せながらも、日本や相手選手を応援しているのは印象的だった。

現状、NPBはオリンピックに出場可能な世界一のリーグだ。しかしNPBの1軍に登録出来る外国人選手枠はたったの「4つ」しかない(コロナ禍の特例は除く)。これは世界最高峰のリーグとしては少ないと感じはしないだろうか?
このままでは世界のタレントは全てMLBメジャーリーグに流れてしまうと同時に、NPBのトップ選手もMLBに移籍してしまう。そうならないために、NPBの外国人選手枠を広げ、世界の有望選手がNPBでプレー出来るような環境作りをし、ワールドワイドなプロ野球リーグとして舵を切る必要があるのではないか。
世界2番目のリーグであるNPBは世界中の選手が目指せるリーグになるべきではないだろうか?

外国人制度

NPBの外国人選手枠

NPBの外国人選手登録選手支配下育成契約に関わらず制限はない。ただし1軍に登録出来る人数は下記のようになっている(コロナ禍の特例を除く)

  • 投手1人+野手3人
  • 投手3人+野手1人
  • 投手2人+野手2人
  • 合計4人以内

つまりどんなに実力があり、日本人選手より優れた成績を残していても、「外国人選手」というだけで、2軍に落とされてしまう事もある。これは実力があればトップのカテゴリーでプレー出来るMLBとは大きな違いだ。

MLBの外国人制度

MLBでは球団の組織内全てのカテゴリーで25%以内の外国人選手と契約出来る。しかし各カテゴリーに登録出来る外国人選手に規制はない。つまり組織に在籍できる人数に限りはあるが、各カテゴリーに登録人数の制限はない。メジャーのカテゴリーでは実力があれば国籍を問わずプレー出来るのだ。

NPBにおける外国人選手の歴史

1936年のプロ野球開始から10人の外国人選手が出場(内半数はハワイ出身の日系選手)だったが、51年途中に巨人に入団した与那嶺要さんが活躍したのをキッカケに51年11月24日の実行委員会で「支配下選手のうち日本人でない選手の数は3名を越えてはならない」となったとある。

(出典:週刊ベースボール2020年0824号NO.37「外国人特集 躍動感あふれる助っ人たち」より)

プロ野球選手会における問題提起

下記は情報は古いが、選手会のホームページより、外国人選手枠の問題点として上げられているものを簡潔にしたものだ。(詳細はこちらをご覧下さい。「日本プロ野球選手会 公式ホームページ」)

    1.支配下70人の中で外国人選手の契約が増えると日本人選手の契約が減り、出場機会が奪われ選手が育たなくなる。
    2.日本人扱いの外国人選手が増えると上記の問題に加えさらに出場機会の減少が助長される
    3.右の長距離砲かつ、一塁手等の外国人選手が多いため、アマチュアでは他のポジションでプロ入りを目指すことになり、そのような日本人選手が育たなくなる。


1について
現在は育成選手契約があるので、支配下でなくとも試合に出場する機会は存在するので、「育成」という観点では解決されているだろう。

2について
個人的には、そのような外国人選手は増えてきているが、FA権を取得するころには既にベテランの域に達している選手が多く、必ずしもレギュラークラスとして活躍できるかは疑問が残る。また極論ではあるが、FA取得後も日本人扱いにしなければ良いのではないだろうか。

3について
アマチュアの全ての組織がプロを念頭に置いている訳ではないと思うので、実際にどれくらい影響があるのかは、一ファンとしては分かりにくい。だが、守備に難のある捕手や外野手が一塁手にコンバートすることは珍しくはないし、また一塁手の選手がプロに入り、外国人選手の関係で…つまりチーム事情でポジションをコンバートするケースの方が多いのではないだろうか。

選手会HPより「日本人選手がレベルアップを図り、プロ野球を活性化する」

日本人選手がレベルアップを図るなら、当然実力が上、もしくは拮抗していることがよりレベルアップに繋がるのでは?と思う。俗に言うライバルの存在だ。そうなってくるとレベルの高い外国人選手とポジションを争う事は、「レベルアップ」という観点からしてみれば理にかなっていると感じる。また、現在は支配下登録以外にも育成選手として契約できるので、育成という視点では支配下選手数70というのは、障壁ではない気がする。

「日本人選手の契約人数が減り、出場機会が奪われ、NPBにおいて、日本人選手が育たなくなるおそれが出てきている」
というのならば、曲論だが外国人選手を禁止すれば良い。出場機会が奪われるというのは、「日本人選手が劣っている」と言っているようなものではないだろうか?
選手会ホームページの「日本プロ野球構造改革案」には「日本プロ野球が、中長期的にはアジア最高のリーグとしてMLBと対等もしくはそれ以上のブランド力を持つことを方向性としています。」とある。MLBと対等、それ以上のブランド力を持つことを目標にしていながら、MLB選手はともかく、その傘下のマイナーリーガーとの争いも拒むような現行の状況では、どのようにブランド力を持たせるのか。アジア市場だけをターゲットにし、MLBと対等になれると考えているのだろうか。
技術はもちろん、市場規模でもMLBに並ぶためには、MLB平均年俸レベルの選手を当然のように呼べるくらいの財政や、そのレベルの選手に簡単にレギュラーを渡さないレベルの日本人選手たち、これらが各球団に求められる基準ではないか。

ここまで読むと外国人選手枠に否定的な意見のように見られるが、「選手会は、「日本人選手がレベルアップを図り、プロ野球を活性化する」という観点から、外国人枠の制限、撤廃という問題に関し、改革を目指しています。」とあるように、選手会としては、現状維持より改革を目指すというのが、総意のようだ。

「助っ人」外国人選手と「チャレンジャー」外国人選手の区別

私が一番の問題点だと思っているのは、全ての国の選手が「外国人選手」と一括りにされている事だ。
例えば、野球大国アメリカのMLBで実績を残してやってきたアダム・ジョーンズ選手(オリックス)と、まだ国に野球が深く根付いていないブルキナファソ出身で、高知ファイティングドッグス(独立リーグ・四国アイランドリーグplus)のサンホ・ラシィナ選手を同一の外国人選手として扱ってもいいものか?

現状のルールはMLBから移籍してくる選手を制限するルールだという事は、明らかにだろう。
大なり小なりの実力差はあれど、今やWBSC(World Baseball Softball Confederation:世界野球ソフトボール連盟)には134の国・地域(野球のみ)が加盟しており、今回の東京オリンピックの予選(もしくは予選に繋がる大会)に出場した国は69か国になる。
今や世界には多くの「外国人選手」がいるのだ。今や北中南米以外の国にも野球の熱は徐々に広まってきているのである。この現状を考慮すると、NPBの「外国人選手枠」というのは改定の余地があるのではないか。

今や「助っ人」外国人選手はいない

現状の外国人選手制度はいわゆる「助っ人」と呼ばれている外国人選手のために出来たものだ。
「助っ人」すなわち高いレベル(MLBやその傘下)のリーグから、一段レベルを落としたリーグ(NPB)にやってくるために、そう呼ばれているのだろう。
個人的には報道などでも「助っ人」と未だに表現されるのには、やや違和感を覚える。これらはプロ野球創成期のレベルのまだ高くない時代なら「助っ人」と表現するのも理解出来るが、今ではどうだろうか。
確かにNPBより「上」のリーグからやってくるし、そこで成功出来なかった選手が多く来るのも間違いないが、果たして彼らは「助っ人」なのだろうか。

今日では、外国人選手はいかに日本の野球に対応できるか。ポテンシャルはもちろん性格面などの野球以外の部分も調査されているという。またNPBでプレーしたいという選手も増え、元MLB選手でも活躍することは簡単ではない気がする。もちろんマイナーリーグより金銭面で好待遇、その先にMLB復帰、などといった側面もあるだろう。だが、それらの要因はNPBのレベルが上がり、MLB球団にとってもNPBが高レベルのリーグであるという事で認知されているからだと感じる。
創成期に「助っ人」外国人選手も、活躍出来た選手と、そうでない選手がいた。だが、近年来日する選手は、かつていたようなNPBを見下したような態度をとる選手はほとんどいなくなったという印象がある。そういった変化からも来日外国人選手から、「NPBが一筋縄ではいかないリーグ」として認知されてきているのだと思う。

「野球不毛の地」からやってくる外国人選手

「野球不毛の地」という表現も、見る方の視点によって違ってくると思うのだが、今回はWBSCの準会員(会員のMLB、NPB、KBO、CPBL、LMB)以外のリーグや定期的なリーグが行われていない国の広範囲を便宜上「野球不毛の地」と表現させていただくことをご了承願いたい。

上記のいわゆる「助っ人」たちは、悪く言えば「上から下に落ちてきた選手」だ。だが、「外国人選手」はMLBから来る選手だけではない。何度も言うがNPBは実力・市場規模共に世界2位のリーグだ。
ここでWBSC世界野球ランキングを見てもらいたい。
日本はワールドランキングでは1位の座を長期間守ってきているが、そしてその下には数多くの野球加盟国が存在している。つまり「下から上がってくる」可能性のある選手が数多く存在しているのだ。その「下から上がってくる選手」と「上から下に落ちてきた選手」は現行ルールでは同じ「外国人選手」という扱いにされる。
先に述べたように「日本人選手がレベルアップを図り、プロ野球を活性化する」のなら、こういった「下から上がってくる選手」と、外国人かどうかは関係なく、一プレイヤーとして出場機会を争うべきではないか。またそういった選手が活躍すればNPBのマーケット拡大にも繋がってくるはずだ。そしてその先に「MLBと対等もしくはそれ以上のブランド力を持つこと」があるのだと思う。

外国人選手枠の新提案

私が独自に考案した外国人選手枠案として、下記を提案する。

    1. 各球団は外国人選手20P分を保有出来る。1軍登録選手の合計Pは20P以内にしなければならない。ただし、20P以内であれば、その人数、ポジションは問わない。
    2. MLB経験者で年俸調停資格以上の選手…5P
    3. MLB年経験者で俸調停資格を保持していない選手の選手…4P
    4. プレーした最高のクラスがAAAの選手…3P
    5. プレーした最高のレベルがAAの選手…2P
    6. プレーした最高のレベルがA以下の選手…1P
    7. 海外プロリーグでのプレー経験がない選手(キューバリーグを除く)…0P
    8. 他国のリーグ経験者は、キューバ、メキシコ、韓国のリーグを「AAA」、台湾のリーグを「AA」に相当するとする
    9. それ以外のリーグ出身でプロ契約していた選手も0Pの扱いとする
    10. NPBでFA権を取得した場合、日本人選手扱いとする
    11. ドラフト指名された場合は日本人選手扱いとする

上記は細かい事は省略した簡易的な案だとご理解いただきたい。
しかし、これならば年俸調停以上の選手はこれまで通り最大4人登録でき、MLBから来る外国人選手を制限しつつ、中南米の有望株やヨーロッパ各リーグの選手、アフリカ等リーグのない国からの選手を発掘して育成し、将来的には「日本人選手」と1軍枠を争わせる事が出来る。
また、今回のランク付けは、単純にカテゴリーの最終所属で表したものである。
実際にランク付けするとなれば、在籍日数が多いカテゴリーを基準にする、日本在籍5年でー1Pとする、MLB以外の組織の格付けをどのような基準で定めるか、など細かい部分で考慮すべき事は多いだろう。

問題点は、仮にこの案が採用される場合は、KBO、CPBLとの折り合いをつけなければならないし(過去にアジア選手枠を検討していた時に反発があった)、プロスペクトを獲得の際はMLBとのマネーゲームに発展する可能性も大いにある。

しかし、自チームで外国人選手を育成でき、尚且つMLB経由でない外国人選手を新規発掘出来る。
そして、プロリーグのない国(そもそもリーグ自体がない国も含め)の選手も日本人選手と競う事が出来るので、一プレイヤーとして評価されることになる。そして、例えば「野球不毛の地」東アフリカ・タンザニアの選手がNPBでプレーすることになれば初の快挙になるだろうし、母国では「野球でお金が稼せげる」と話題になれば、競技人口増加の一手にも繋がるだろう。
また従来のように、大金を叩いて獲得した選手が活躍出来ないといったデメリットを、若い選手を獲得・育成することで日本の野球に慣れさせ「外れクジ」を引くリスクを回避できるのではないか。

2021年の外国人選手に当てはめる

外国人選手の多い、福岡ソフトバンクホークスと読売ジャイアンツ、そして私の贔屓チームである東京ヤクルトスワローズを例に挙げ、どのような登録になるか考察してみる。

福岡ソフトバンクホークス


「育成」に関しては、もはやお家芸といえるソフトバンク。近年は日本人選手だけでなく、海外のプロスペクトの発掘にも力を入れ始めた。その先駆者とも言えるスチュワートはプロを経由していないので、外国人枠に含まれない0P。このルールでスチュワートが活躍すれば、MLBドラフトで契約まで至らなかった選手のNPB進出は増えるだろう。
基本戦線となる先発投手のマルチネス、リリーフのモイネロ。野手のグラシアル、デスパイネを合わせても14P。そこに新加入のアルバレスを加えて18P。バレンティンは既に日本人扱いなので、離脱中のサファテを除く、全外国人選手が登録可能となる。
このルールでは、「世界一」を目標に掲げ、既に海外のスカウト網も広げているソフトバンクにとっては追い風になるだろう。

読売ジャイアンツ


投手陣は現状、デラロサ、サンチェス、メルセデス、ビエイラと、先発リリーフともに層は厚い。仮にこの4投手を登録すると、14Pで少し余裕がある。メルセデスを発掘できた事が優位に働いている。この状態で野手はウィーラーorハインマンの登録が可能となる。
また、Pの低いメルセデスを残し、サンチェスを外すことで、ウィーラーとハインマンを同時登録が可能となる。
このパターンで合計18P。うまく育成が進めばこの戦力にミサキ、ウレーニャに加え、ヤンキースと獲得を争った逸材・デラクルーズやティマといったプロ経験のない選手も加えることができ、その人数9人。
更に、デラクルーズやティマの育成に成功すれば、ドミニカ有望株の獲得ルートが開けるのではないか。

東京ヤクルトスワローズ


今シーズンはリリーフのマクガフ、野手のオスナ、サンタナ。そしてスアレスとサイスニードを先発で回すというのが基本。
育成選手はいなかったが、支配下登録期限間際にケリンを獲得。編成によると、支配下ながら育成を視野に入れているとの事で、この場合ルーキーリーグしか経験のないケリンは1P。
育成に成功すれば、スアレスORサイスニード、マクガフという投手陣にケリンも加えることが出来る。オスナ、サンタナと合わせても合計19P。さらにルーキーリーグレベルの選手を1人加えることも出来る。
また、マイナーだけでなく、ブラジルから選手を発掘するのはどうだろうか?
現在は在籍選手はいないが、近年MLBへの輩出も多いブラジルにアカデミーを持つ(現在稼働しているかは不明)ヤクルトの強みを生かせるようになるのではないか。

結論

もはやNPBは日本人の為のリーグではなく、世界中のプレイヤーが目指すリーグの1つだ。MLBはヨーロッパやアフリカでもトライアウトを行い、常に世界の市場を開拓しようとしているが、NPBは現状維持のままだ(これは日本的であるといえよう)。日本も世界に目を向け、多くの国のプレイヤーが集まるのが理想ではないか。日本人選手の出場機会がなくなるという懸念は、実力主義のプロリーグにあっては、疑問が残る。
プロ野球創成期は日本人選手の技術向上・リーグの発展のため(要確認)に外国人選手枠が必要だったかもしれない。しかしプロリーグが誕生し、70年以上が過ぎた。WBSCのランキングも1位を維持し続けている野球強国日本に、MLB経由以外の選手が挑戦出来ない環境(外国人枠に弾かれてしまう)にあるのは非常に残念だ。
世界中の、特にヨーロッパやアフリカ出身のNPB選手が増えれば、自国でも野球がニュースに取り上げられる回数も増えるだろうし、国際大会ではNPBのファンが、その国の代表に興味を持つかもしれない。
外国人選手枠の改善が、MLB以外のプロ選手をこれまで以上に生む可能性があり、今まで「野球不毛の地」と言われた国で盛り上がれば、オリンピック復帰を後押しすることになるのではないか。
またオリンピックだけでなく、そういった選手たちが国際試合で活躍し、大会が盛り上がれば、国際的にもNPBのブランド力が向上し、将来的には選手会の目指す「アジア最高のリーグとしてMLBと対等もしくはそれ以上のブランド力を持つこと」に繋がっていくだろう。外国人選手枠の見直しは、国際野球の普及とNPBのブランド力向上の双肩を担っていると表現する事は、行き過ぎているだろうか。

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