今さら聞けない!野球の新たなデータ、OPSとは?

OPS セイバーメトリクス 東京ヤクルトスワローズ

ここ数年、MLBセイバーメトリクス(野球のデータを統計学的に分析し、選手を評価したり戦略を立てたりする手法)を導入したことにより、日本の野球界でも、あまり見慣れない数字を目にするようになった。これは選手をより細かい指数で数値化し、目に見える数字で選手を評価するようになったことが関係していると感じる。その中でもメジャーになっているのがOPSオーピーエス)ではないか。

セイバーメトリクスというと、複雑な計算を必要とし、数値だけ見ても今一つピンと来ない方も多いかもしれないが、OPSはとても簡単な指数なので、少しでも観戦の手助けになってくれたらと思う。

ここでは、OPSという言葉を初めて聞く方、野球を詳しくない方にも分かるように、東京ヤクルトスワローズを例にあげ、説明していく。

OPSとは?

OPSは打撃成績の指標の一つで、出塁率長打率を足して算出される、最も簡易的なセイバーメトリクスの1つで、「アウトにならない確率(出塁率)が高く、尚且つ長打も打てる選手」と言い換えられるだろう。

従来は、打率、安打、本塁打、打点などの数字が打撃成績において重要視されていたが、MLB、オークランド・アスレチックスビリー・ビーンGM(当時)が、低予算でチームを編成しなければならず、セイバーメトリクスを重視し、出塁率が高く年俸の低い、セイバー上で優秀な選手を発掘しチームを作り上げた。その中で重視されたの指数の一つがOPSだ。その後アスレチックスが成果を上げるとともに、「マネー・ボール」という書籍が発表され、OPSとい指数が野球界に広まったと認識している。

何故OPSを重視したのか?

ビリー・ビーンはバント盗塁といった戦術を重要視しなかった。自らアウトを一つ献上したり、一つ先の塁を奪うリスクは、得点期待値(3アウトになるまでに取れるであろう平均的な得点)を下げるとしていたからだ。
代わりに出塁率や長打率を重要視し、アウトにならない選手、1打席で多く塁を進められる選手を重要視した。それは、打率が高い選手や本塁打の多い選手は年俸が高くなるので、そういった選手を獲得できない、ある種苦肉の策でもあった。

東京ヤクルトスワローズで見るOPS

今回はスワローズのOPS事情を見てみる。
尚、OPSの評価基準は下記のようになる。

  • .950 非常に優秀
  • .850 優秀
  • .720 平均
  • .650 問題あり
  • .600 かなり問題あり

「出典元:2019プロ野球ベストプレイヤーランキング100 株式会社日本スポーツ企画出版社)

2020年スワローズのOPS(規定打席以上)

  • 村上宗隆 .307/.427/.585/1.012
  • 青木宣親 .317/.424/.557/.981
  • 山田哲人 .254/.346/.419/.766
  • 坂口智隆 .246/.334/.354/.688

最高出塁率のタイトルを獲得した村上がOPSでもダントツでチームトップ。1.0越えとMVP級の数値を出した。尚、パ・リーグのOPS1位はリーグMVP柳田悠岐福岡ソフトバンク)で1.071である。青木も38歳にしてキャリアハイの長打率とOPSを記録した。ちなみに両選手はセ・リーグのOPSでも1,2位である。
山田は不振に陥りOPSは.766止まりも平均以上。.254の打率に対し、出塁率.346と比較的良好な数字を保った。好調なら.950前後の数字を残せ、村上、青木とトップ3独占も可能だっただけに残念だった。
キャリアハイの本塁打を放った坂口は、打率が沈み出塁率も移籍後ワーストでOPSも.688と伸び悩んだ。それでも四球が多く打率より.090近く上昇させた。

(写真:リーグ1位のOPSを残し、チームの柱となった村上。)

OPS1位、2位の選手を抱えながら、チーム打撃は打率最下位をはじめ、軒並み下位だったが、規定打席未満の選手にはこんな数字を出している選手もいた。

2020年スワローズのOPS(100打席以上~規定打席未満)

  • 塩見泰隆 .279/.369/.487/.856(179打席)
  • 廣岡大志 .215/.302/.446/.748(142打席)
  • 宮本丈 .274/.361/.370/.731(171打席)
  • 西田明央 .232/.313/.368/.682(215打席)
  • 西浦直亨 .245/.288/.385/.672(310打席)
  • 山崎晃大朗 .245/.320/.305/.625(323打席)

規定打席未満では塩見がダントツのOPS.856を叩き出し、不調だったとはいえ、山田をも上回る数値を記録した。また不調と言われた廣岡だったが、打率、出塁率は例年並みながら、長打率は.050近くも上昇し、OPS.748はもキャリアハイ。数値上では着実に成長してきている。そして山田に代わってスタメン出場も増えた宮本も.274/.361は山田を上回り、不調をある程度カバーした。コンタクトヒッターの為、長打率は上がりにくいが、それでも坂口より上の数値を記録できたのは、チームにとってかなりの収穫だったのではないか。
西田のOPSは捕手陣の中でも群を抜いており、2016年の.722に次ぐ数字だった。2021年は打てる捕手としての地位を確立できるか、正念場になってくる。
西浦は、エスコバーの加入や故障などもあり出遅れたが、本塁打はキャリアハイの10本。5番も任される試合も大かったが、出塁率.288長打率.385はかなり物足りない。ショートのライバルでもある廣岡に長打力は劣るだけに、出塁率を.340近くまであげないと厳しいか。
山崎も序盤の好調を維持できず、打率.245出塁率.320となった。ただ山崎も長打の少ない打者なだけにOPSは.600台だが、300打席で宮本と同水準にまで上げられれば、レギュラーとして定着できるのではないか。

ただ上位の4人の数値はあくまで確率であり、打席数が西浦、山崎に比べ圧倒的に少ないので、300打席立った時に同等の数字が残せるか(調子をキープ出来るか)は、未知数である。

(写真:OPS.856を記録し今季ブレークが期待される塩見(左)、OPS.731と健闘。山田離脱の穴を埋めた宮本(中)、レギュラーとしては物足りない数字となった西浦(右))

データは(プロ野球データFreakさんのサイトを参照させていただきました。)

OPSで組む打順

  • 8塩見 .279/.369/.487/.856
  • 3村上 .307/.427/.585/1.012
  • 4山田 .254/.346/.419/.766
  • 7青木 .317/.424/.557/.981
  • 6廣岡 .215/.302/.446/.748
  • 5宮本 .274/.361/.370/.731
  • 9坂口 .246/.334/.354/.688
  • 2西田 .232/.313/.368/.682

今回はセイバー的に重視される1、2、4番に重点を置いた。

1番には高出塁率で俊足で併殺回避能力も高いであろう塩見。長打率も.487あり、盗塁のリスクを冒さなくても得点圏まで進める確率が高くなる。そしてセイバーメトリクスにおいて2番最強説が根強くなっているので、2番には村上。出塁率も.427と高く、塩見と連続で凡退する確率も低いだろう。さらに長打率.585と塩見が出塁し、村上が返すという2人で1点取るパターンも多くなりそうだ。
初回2アウトランナーなしの場面で打順が回ることも多いため、セイバー的に優先度が低いとされる3番には山田。それでも出塁率.346は打線の上位としてはそこそこ優秀ではないか。ただあくまで昨年の山田は不調であったので、本来ならば1、2、4番のポジションに入ってくるだろう。そして4番は青木。.317/.424/.557/.981とスラッシュラインに文句の付けようがなく、堂々の4番だ。
5番は長打の廣岡か出塁率の宮本か迷うところであったが、単純にOPSの高いほうを5番とし、以下も同様にラインナップした。

結論

OPS上位8人で打線を組んでみたが、レギュラー陣4人は上位8人に入っていた。レギュラーとして常時試合に出場する最低限の攻撃力として.700以上の数値は求められるのではないか。そう言った意味では、廣岡や宮本はレギュラーになってもおかしくないし、塩見は中心選手になれる程の数値を出している。逆に山崎や西浦はレギュラーとしてはやや物足りない。
西田も捕手としてはそこそこの数値だと思うが、大城卓三読売)が.751、会澤翼広島)が.774、梅野卓三阪神)が.723と他球団のレギュラー捕手がこれだけの数値を出しているので、やはり少し物足りない。逆に言えば、もう少しOPSを上げられればレギュラーはもちろんリーグを代表する捕手になれる。
2020年のスワローズは村上、青木とセ・リーグのOPS1、2を独占しながら、打撃指標は軒並みリーグ下位と2人を生かせなかったあ。山田の復調はもちろん、村上・青木をカバー出来る、もっと攻撃力の高い選手の出現が望まれる。そういった意味で、今回OPSの比較的高かった塩見、廣岡、宮本のレギュラー定着を期待したい。

野球は守ることも当然大事だが、点を入れなければ勝てないスポーツだ。
これは個人的な印象だが、突出した守備力がない限り(例えば宮本慎也氏のような)、スタメン出場する選手は打撃優位の選手が多いように思える。それは得点をすることで試合を優位に進められるからではないだろうか。得点するという事は、いかにアウトになる確率を減らせるかが重要かと思う。それを表すのが打率ではなく出塁率だ。例え打率が.250でも出塁率が.370あれば打率.300出塁率.350の打者よりもアウトになる確率は高くなる。加えて長打率が高ければ走者を1つでも先の塁に進ませる確率が高くなる。

OPSとは簡単な指標で、もちろんこれが全てなわけではないが、攻撃をする上で重要な要素の一つになってくるのは間違いない。
打率や本塁打に注目が行きがちだが、野球ビギナーなファンの方々にも分かりやすい指標となっているので、今後このOPSに注目し、隠れた名選手を探しながら野球を見てみるのも面白いのではないか。